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性感染症(STD)3 梅毒感染症

梅毒とは、「トレポネーマ・パリダム(Treponema pallidum)」という細菌に感染することで、全身に症状が現れる感染症です。
梅毒は主に性行為をきっかけとして広がるため、同じ感染経路を持つHIVやクラミジアに同時感染することもあります。日本では2011年以降、梅毒の患者数が増加傾向にあり、厚生労働省の感染症発生動向調査週報(IDWR52号)によると、2017年には5,770件の報告数がありました。特に大都市周辺の患者さんが多くなっていますが、最近では地方都市でも急増しており、日本全体でみられる病気となっています。
シンガポールでも増加の報告があります。男性では20歳以降の幅広い年齢層に多く、女性では20代の患者さんが全体の約60%弱を占めています。これらの数字は、性活動の動向を反映していると考えられ、今後も梅毒の報告は増加すると予想されています。
なお、梅毒は大人に限った病気ではなく、胎児の時期に影響を受けた乳児にも症状(先天梅毒)が現れることがありますが、今回は性感染症としての後天梅毒のお話をします。

性行為に伴い発症する後天梅毒は、症状・感染後の時期に応じて、第1期ー第4期に分類されます。それぞれの時期で次のような症状が現れます。

「第1期(感染から3か月)」
性器周辺や口、肛門など、トレポネーマ・パリダムが侵入した部位にしこりができることがあります。このしこりを初期硬結といいます。初期硬結はコリコリとした小さな赤い隆起です。この硬結部位を中心に、徐々に潰瘍が生じます。潰瘍は硬性下疳と呼ばれ、痛みがないことを特徴とします。また、鼠径リンパ節に腫れが生じることがあります。腫れは横痃や横根と呼ばれます。梅毒を原因とした横根は、感染してから3週間以降に鼠径部(足の付け根)に生じることが多く、痛みを伴わないことが特徴です。これらの症状は3ー12週間で自然に消失することも多く、気付きにくいこともあるため、この段階で梅毒が診断されることは比較的まれです。

「第2期(感染後3か月から3年)」
第2期では、手のひらや足の裏、体幹を中心に赤い発疹が現れます。発疹は見た目がバラの花に似ていることから「バラ疹」と呼ばれることもあります。手足の発疹は、体内に侵入したトレポネーマ・パリダムが全身に広がるために生じます。現在では診断・治療方法が確立し、この時期までに治療介入ができるようになっています。

「第3期(感染後3年から10年)」
治療をせず、梅毒がさらに進むと、皮膚や筋肉、骨などに「ゴム腫」と呼ばれるゴムのような固さの腫瘍が現れるようになります。

「第4期(感染後10年以降)」
体内の奥深くに病変が生じ、中枢神経や大動脈にも影響が及ぶようになります。第4期まで進むと、髄膜炎や脳梗塞、神経症状、心不全症状などを起こすこともあります。

梅毒の検査方法には、血液を採取して行う血清学的検査と、病変から直接菌を検出する方法の2通りがあります。一般的には血清学的検査のみで診断がつけられています。

治療は主にペニシリンという抗生物質を使って治療します。一般的には感染の可能性がある性行為ののち、検査で陽性と診断されると、ペニシリンの服用を開始します。
これを駆除療法といいます。ペニシリン・アレルギーを持つなど、ペニシリンを使えない一部の患者さんには別の抗生物質を用います。また妊婦の方には殺菌作用のある別の薬が処方されるなど、状況に応じて使用する薬は変わります。

梅毒は性行為を介して広がる感染症です。予防としては、不特定多数とのセックスをしないこと、最初から最後までコンドームを使用することなどが重要です。梅毒の検査で陽性反応が出たときには、ご本人だけではなく、パートナーも一緒に検査と治療を受けるようにしましょう。

医師 長谷川 裕美子