今回はSTDの中でも、強い痛みを伴う性器ヘルペスについてお話しします。
性器ヘルペスウイルス感染症(genital herpes simplex virus infection、以下性器ヘルペス)は、単純ヘルペスウイルス(HSV)の感染によって性器やその周辺に水疱や潰瘍等の病変が形成される疾患です。感染はHSVに感染している相手との性交によって起こり、相手の性器に明らかな病変がある場合のみならず、無症状でも性器の粘膜や分泌液中にウイルスが存在する場合には感染します。また相手の唾液中にHSVが排出されている場合には、口唇性交によっても感染します。
外部から入ったHSVの初感染によって起こる初発(急性型)と、潜伏感染していたHSVの再活性化によって起こる再発(再発型:過去に性器ヘルペスの病変を経験している場合)、および非初感染初発(誘発型:過去に感染していたが無症状で、免疫低下を契機としてウイルスが活性化し、初めて病変を経験する場合)の3種類の臨床型に分けられます。
急性型が症状はもっとも重く、感染機会があってから2〜21日後に外陰部の不快感、掻痒感等の前駆症状ののち、発熱、全身倦怠感、所属リンパ節の腫脹、強い疼痛等を伴って、多発性の浅い潰瘍や小水疱が急激に出現します。病変部位は男性では包皮、冠状溝、亀頭、女性では外陰部です。再発型は、心身の疲労、月経、性交その他の刺激が誘因となって起こりますが、急性型に比べて病変は小さく数も少ない等症状は軽く、1週間以内に治癒すること がほとんどです。
また、妊婦が性器ヘルペスに罹患し、出産時にウイルスを排出していた場合には、新生児がHSVに感染し、重篤な新生児ヘルペスを発症する危険性が高いため注意が必要です。
性器ヘルペスの治療には抗ヘルペスウイルス剤「アシクロビル(商品名ゾビラックス)」を用い、服用すれば病変はいったんは治癒しますが、HSVは一度感染すると神経節に潜伏し、時に再活性化し、患者はその後長年にわたって再発を経験する場合があります。
性器ヘルペスの予防は、HSVを排出している相手との直接の性的接触を避ける以外に方法はありません。性器や口腔にはっきりした病変があれば気を付けますが、無症状でウイルスを排出している場合も多いので、なかなか困難です。
ワクチンはまだ開発されておらず、パートナーがHSVを保有していないことが確実な場合以外、予防のためにはコンドームを使用をお勧めしますが、病変が広範囲にわたる場合にはコンドームを用いても防ぎきれるものではありません。
性器に違和感、痛み、できものがあった場合には早めに婦人科を受診しましょう。
医師 長谷川 裕美子