前回は、調節力の低下にともなう適応方法をご説明しましたが、ここからは、最新のテクノロジーを用いた老眼治療をご説明いたします。それが、「多焦点眼内レンズを用いた白内障手術」です。白内障、と耳にするのは70~80代の病気と思われがちですが、近年、環境因子や生活習慣などで若年化傾向にあります。発症年齢を年齢別にみていくと、50代では37~54%、60代では66~83%、70代では84~97%という報告もされており、高齢化社会を迎えつつあるシンガポールでも、白内障治療は注目されています。外傷やアトピー、糖尿病があると20~30代でも発症することがあります。
白内障は、そのほとんどが加齢性変化によって生じます。ゆくゆくは白内障手術をするのであれば、老眼対策もいっしょにやってしまおう、というのが多焦点眼内レンズを用いた白内障(屈折矯正)手術です。
この多焦点眼内レンズはすでに15年くらい前より臨床の場で使われており、主流は、2焦点(遠・近)レンズですが、最新は、3焦点(遠・中・近)レンズも臨床で使用されています。これらにより、眼鏡いらずの生活時間がかなり多くなりました。
もちろん、多焦点レンズならではのデメリットもあります。100ある光を集光しえる単焦点レンズとは違い、光を分離して近方50%、遠方50%とするため、光のロスが多少生じ、コントラスト感度(明暗)が多少低下する報告がされています。また、夜間、車のヘッドライトや電灯をみると輪郭がぼやけるグレア・ハロー現象を感じますが、前者は光環境を強くすればそれほど気になりませんし、後者は視覚中枢がある脳が徐々に適応して気にならなくなる、とも言われています。
いずれにせよ、これらの治療法を選択する前に、医師とよく話し合ってから決断することをお勧めします。
治療法はすでに確立されており、点眼麻酔をした後に、濁った水晶体を2.0~2.4mmの切開創から超音波を使用して砕き吸引した後に、50年はもつといわれている眼内レンズを挿入固定し、傷口を縫合することなく自己閉鎖し手術は終了します。痛みもなく鋭い刃物がみえるという恐怖感も全くありません。多くの患者さんが「万華鏡をみているようだった」と感想を述べられています。白内障手術はその技術革新と効果的な薬剤の開発により、現在ではほとんどが日帰り手術です。
当院では、シンガポールで手術はちょっと不安、という方に、日本でも手術が受けられるような支援もしています。気になる手術費用なども当院眼科ホームページをご参照していただけたら幸いです。特に今までの手術経験からして、強度近視、眼精疲労が強い遠視の方には、屈折矯正目的も兼ねた白内障手術をされると、非常に喜ばれます。
ぜひ一度ご検討ください。
医師 岡野 喜一朗