「妊娠したら歯が悪くなるというのは本当ですか?」と患者さんから質問されることがよくあります。確かに、妊娠をきっかけに歯や歯ぐきの調子が悪くなったと感じている女性の方はたくさんいらっしゃるでしょう。
ちなみに、「妊娠すると母体のカルシウム分を赤ちゃんに持っていかれるから歯が弱くなる」という俗説が世の中ではまことしやかに語られることもありますが、これは正しくありません。では、なぜ歯は悪くなるのでしょうか?
つわりの時期には吐き気で歯をしっかり磨くことが難しい場合があり、むし歯になりやすい口腔環境になりがちです。さらにホルモンの影響から妊娠性歯肉炎と呼ばれる歯肉炎を引き起こしたりもします。この状態が長く続けば歯ぐきが腫れ、歯磨きをするだけで出血しやすくなります。そこで出血を嫌って歯磨きを控えてしまうと、歯肉炎が歯周病へと移行してしまい悪循環に陥ることもあります。
もちろん、妊娠前から定期的に歯科受診をして健康な口腔環境を維持するのが望ましいですが、妊娠4~7か月の妊娠中期であれば、一般的な歯科治療は無理なく行えることがほとんどです。出産してしまえば赤ちゃん中心の生活になり、しばらくは歯医者通いどころではなくなるので、出産前に必要な治療は終わらせておく方が良いと思います。
歯科疾患は症状が出るまでの潜伏期間が長いです。痛みは急に襲ってきますが、むし歯や歯周疾患はずっと前から始まっています。歯の状態が深刻であればあるほど、治療回数が増える傾向にあるので、ぜひ早めに歯科を受診しておくことをおすすめします。
歯科医師 畑 茂