赤ちゃんがほしい8(体外受精2)
2025年6月17日

四十肩?五十肩?

肩が痛くて動かしにくくなる病気に、「四十肩」や「五十肩」と呼ばれるものがあります。これは、英語ではAdhesive Capsulitisと呼ばれ、忠実に日本語訳した「癒着性関節包炎(ゆちゃくせいかんせつほうえん)」が最も病態に近い病名と考えられていますが、他にも「凍結肩(とうけつかた)」、「肩関節周囲炎」という呼び方があることを考えると、一つの病態に対して5つの異なる病名があることになります。なぜこんなにいろいろな名前があるのでしょうか?今日はそのことについて少しお話をしたいと思います。

まず、「四十肩」や「五十肩」という言葉は昔から広く知られていて、40~50代の人に起こりやすいことでこう呼ばれるようになりました。正式な病名ではありませんが、わかりやすく親しみやすい言い方です。「五十肩」のほうは中国でも俗称として広く使われているそうで、医のルーツが日中同じであることを示す、ある意味伝統的な病名といえます。
一方、「肩関節周囲炎」という言い方もあります。これは肩のまわりに起こる炎症の総称とされていますが、あまりにも漠然としすぎていて私はあまりこの名称を使っていません。
次に「凍結肩(とうけつかた)」ですが、英語の「Frozen Shoulder」から来ていて、肩がまるで凍ったように動かなくなることをイメージしています。これは炎症が進んで肩の動きが特に悪くなった状態を表します。
そして最後に「癒着性関節包炎」ですが、肩関節を包んでいる膜(関節包)が炎症により癒着してしまうことで動きが悪くなり痛みが出るということを示した、病理学的にはこれが定義に最も忠実な名称です。

ここまで読んで、皆さんは思うかもしれません。では何故、「癒着性関節包炎」という病名に統一しないのか、と。確かにそうなのですが、患者さんへの伝わりやすさや病名の親しみやすさに加え、医学的には関節包の癒着がなくても何故か同様の病態が起こることが分かっていたりと、「癒着性関節包炎」の一人勝ちには出来ない側面があるようです。
医学の専門性と一般認識の間のギャップを埋めるために、多様な言葉が用いられている場面(例えば脱腸=鼠経ヘルニア、など)はよくありますが、5つもの名称を持つことは珍しいといえ、この病態の奥深さを感じさせます。

医師 長谷川 典子