以前のコラムではランニング障害についての総論と、腸脛靭帯炎についてお話ししました。そこで今回は、シンスプリントと疲労骨折についてもお話をしたいと思います。
シンスプリントと疲労骨折は、運動習慣のある人々にとって身近な障害でありながら、その違いを正しく理解している人は意外と少ないかもしれません。どちらも、脛(すね)の内側に痛みを引き起こす疾患ですが、シンスプリントの場合は比較的広い範囲で痛みがあり、左右ともに痛みがみられることが多いのが特徴です。一方、疲労骨折はシンスプリントと比べると、痛みの部位が限局しているのが特徴です。また、脛の内側だけでなく、足の甲(舟状骨や中足骨)や外くるぶしの上にも生じます。
シンスプリントは脛骨過労性骨膜炎とも呼ばれ、ランニングによって筋肉の牽引が繰り返されることで、骨の表面に負荷がかかりすぎて骨膜炎を起こすという病態です。ウォームアップ不足や硬い路面でのランニングが原因になりますので、もし生じてしまったら練習量を減らし、アイシングとともにふくらはぎのストレッチを心がけるようにしましょう。足底のアーチを支える靴の中敷き(インソール)を検討することも有効です。
疲労骨折の場合は骨に荷重の衝撃が繰り返されることで生じる病態で、過度な負荷が長期間かかることで骨の修復が追い付かずに起こります。そのため、急に練習量(距離や頻度)が増えたときに発症しやすいです。生じてしまったらランニングを中止することで多くは数週間から数か月かけて良くなりますが、そのままの練習量や内容では再発もしやすいので、トレーニング内容やシューズ、そしてやはり靴の中敷きを検討することが有効です。ランニング障害のコラムでも以前書きましたが、クッション性が劣化したインソールは下肢への負担をかけますので、シューズは普段からよくチェックしておくようにしましょう。500km以上を同じ靴で走ったならば、一度靴を新調することをお勧めします。
12月に行われるシンガポールマラソンに参加しますという声を、外来でもちらほら耳にする時期になってきました。安全に長く運動を楽しむためにも、少しでも異常を感じたら自分の体の声に耳を傾け、痛みを軽視しないことは非常に大切です。
医師 長谷川 典子