2018年にこの記事をメルマガで配信しました。
「近年、未受精卵の凍結保存が可能となり、日本でも施行している施設が増えてきました。仕事やパートナーの都合で妊娠出産の準備が整わないまま卵子と共に年を重ねていき子供を産み辛くなることを社会性不妊といいます。卵子が老化すると、染色体の不分離が生じやすくなり、流産率も上がり結果的に出産率が激減します。未受精卵凍結は現時点でご結婚、ご妊娠の予定が無い場合、将来の妊娠出産に備えて若い卵子を凍結保存しておくことができると言うまさに現代社会の問題点の解決策の一つとして、今後ますますの需要の増加が予想されます。しかし、未受精卵凍結の歴史はまだまだ浅く、将来解凍し使用する際の卵子の妊娠率がさほど高くないのが現状です。未受精卵解凍後の卵子生存の確率は、これまでの報告によりますと30~60%、さらに受精率は40~70%程度です。それらを考慮するとなるべく若い時期になるべく多く(5個以上)の卵子を凍結しておくのが望ましいと思われます。今現在妊娠の予定は無いが、将来のことを考え卵子を保存しておきたい、という方は検査や手技の説明、病院の紹介などでサポートさせていただきますので、ご興味のある方はクリニックへお越しください。とは言え、やはり妊娠中のリスクや負担を考えるとなるべく早い時期に妊娠するに越したことはありません。以前もお話したように、今ご自身の卵巣年齢がどれくらいなのか、卵子の在庫に余裕があるのかを調べる検査(AMH:抗ミュラー管ホルモン)もあります。もし卵巣年齢が実年齢より高齢の場合はなるべく早めに妊活もしくは卵子凍結をすることをお勧めします。まずはこの検査を受けてみてから卵子凍結をするかどうか考えても良いでしょう。」
シンガポールでも女性のキャリア志向による晩婚化、合計特殊出生率の低下などを受け、2023年より今まで条件付きでのみ許可されていた未受精卵の凍結保存に関して、健康な女性でも21歳から35歳の女性を対象に可能とする方針が、2022年の今年ようやく発表されました。とはいえ、医療費の高いシンガポール。1周期での手技代や薬代は1万ドルを軽く超えますし、凍結保存の費用もかかります。多くの卵子を保存しておくために少なくとも2周期は採卵が必要であることを考えると、シンガポールの卵子凍結には2万5千ドル以上はかかると考えておいてください。
日本では最近、卵子凍結専門のクリニックが駅前にできるなど、どんどん身近なものとなり、値段もシンガポールと比較するとかなり安価にできること、将来何年も保存するということになった場合に生活の拠点がどこにあるかなどを考慮すると、やはり日本での卵子凍結がお勧めかな、と思います。
医師 長谷川裕美子