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日常生活の中のちょっとした運動の意義

一般的に、運動は健康維持に重要であると言われています。私も患者さんに対して「1日30分、週5日を目安に運動することを心がけてください」と申し上げていますが、一方でこの運動量を維持するのはなかなか大変だな、とも思っています。では、このようなしっかりとした運動ではなく、日常生活の中のちょっとした運動はどのくらいの意義があるのでしょうか。これに関して、Nature Medicineに興味深い論文が掲載されていたので紹介いたします。(Emmanuel Stamatakis et al.Association of wearable device-measured vigorous intermittent lifestyle physical activity with mortality.Nature Medicine.28,2521-2529(2022).)

筆者らは、日常生活の中で散発的にみられる短時間の強めな身体活動(例えば通勤途中に早足で歩くことや階段を上り下りすることなど)をVILPA(vigorous-intensity physical activity done as part of daily living)と名付け、被検者に加速度センサーを身に着けてもらうことで1日あたりのVILPAの回数と持続時間を計測し、総死亡数、心血管系疾患による死亡数、癌による死亡数への影響を調査しました。

分析対象となったのは英国の「週に1回以上のまとまった運動をする習慣がない」40~69歳の男女25241人です。平均年齢は61.8歳で、56.2%が女性でした。平均6.9年の追跡調査で分析対象のうち852人が死亡しており、このうち266人が心血管系疾患により死亡、511人が癌により死亡していました。

調査の結果、VILPAは、総死亡数、心血管系疾患による死亡数、癌による死亡数のすべてに関してほぼ直線的な逆相関がみられました。1日あたりのVILPAの回数は中央値で3回でしたが、1日3回のVILPAが計測された分析対象者は、VILPAがなかった人に比べ、総死亡と癌による死亡のリスクが38~40%減少し、心血管系疾患による死亡のリスクが48~49%減少していました。また、1日あたりのVILPAの持続時間は中央値で4.4分であり、これにより総死亡と癌による死亡のリスクは26~30%、心血管系疾患による死亡のリスクは32~34%減少していました。これらの結果から、著者らは運動習慣のない人にとってVILPAが有益であることが期待できると結論しています。

この調査の面白いところは、分析対象者が運動習慣のない中年以降の人々というところだと思います。これらの方々に運動習慣を新たに身に着けてもらうことは難しいかもしれませんが、ちょっとした運動を心がけるだけでも意義があるとしたら、俄然やる気が変わってくるのではないでしょうか。とりあえず、私も明日から積極的に階段を使うようにしようと思います。

医師 堀部 大輔