急性腹症とは、文字通り急激に発症した腹痛を伴う疾患の総称です。つまり、急性腹症と一口に言ってももさまざまな疾患が含まれるわけですが、その中から、私がシンガポールに赴任してから経験したことのある疾患を中心に、ひとつずつピックアップしてお話ししていきたいと思います。第1回目は、急性虫垂炎についてお話します。
虫垂とは?
大腸は奥から盲腸、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸、直腸という名前がついていますが、そのうちの盲腸の下部についている指状の小突起を虫垂といいます。
虫垂が何らかの原因(便の塊など)によって閉塞すると炎症が起きます。これが急性虫垂炎です。なお、虫垂炎のことを俗語で「盲腸」と言うこともありますが、これは医学的に正確な名称ではありません。
症状は?
典型的には、みぞおちから始まった腹痛が次第に右下腹部に移動するとされています。食欲不振や、時に嘔気・嘔吐を伴うことがあり、発熱を伴うことも多いとされます。
なお、炎症が進んで虫垂に穴があくと、痛みが下腹部全体に広がることもあります。
診断はどうやってつける?
腹部の様子から急性虫垂炎が疑われた場合は、採血検査を行って体の中の炎症の状態を評価します。また、腹部超音波検査や、腹部CT検査が診断に有用とされています。
これらの検査は、急性虫垂炎以外の疾患を否定するためにも役立ちます。
治療は?
治療には保存的治療と外科的治療があります。
保存的治療とは、手術を行なわずに抗生剤を使って治療することです。入院しないで治療することもあります。ただ、症状が改善しない場合は手術が必要となり、また症状が改善しても将来的に再発する可能性があります。
外科的治療とは手術のことです。基本的には入院となります。治療の確実性は高いのですが、手術による合併症が起きる可能性があります。
なお、最近では抗生剤の進歩や画像診断技術の向上によって、まず保存的加療を行なって炎症を沈静化させたあとに手術を行なうという選択肢も出てきました。
急性虫垂炎は比較的なじみのある急性腹症だと思います。ただ、診断が難しい場合や重症化してしまう場合もありますので、虫垂炎かな?と思われた場合は医療機関の受診をお願いいたします。
医師 堀部 大輔