急性腹症とは、急激に発症した腹痛を伴う疾患の総称です。急性腹症と一口に言ってもさまざまな疾患が含まれますが、その中から、私がシンガポールに赴任してから経験したことのある疾患を中心に、ひとつずつピックアップしてお話ししていきたいと思います。
第3回目は、急性膵炎についてお話します。
膵臓とは?
膵臓は胃の裏側にある、長さ15CM~20CM程度の細長い臓器です。右側が太く、左側が細くなったおたまじゃくしのような形をしています。膵臓の働きのひとつとして、口から摂取した栄養素を分解するための「消化酵素」と呼ばれる物質の分泌があります。
この消化酵素は物質を溶かす働きが非常に強いのですが、通常であれば食べ物のみに対して働くように調整されています。何らかの原因でこの調整機能がうまく働かなくなり、消化酵素が膵臓自身を消化し、さらに膵臓を越えて周りの組織に障害を与えるようになった状態が急性膵炎です。飲酒、胆嚢結石などが主な原因とされますが、原因不明の場合もあります。
症状は?
典型的な症状は強い上腹部痛ですが、背部まで痛みが広がることもあります。発熱を伴うことや、悪心・嘔吐がみられることもあります。重症化すると呼吸困難や意識障害、血圧低下などの症状が出現し、生命にかかわることもあります。
診断はどうやってつける?
腹部の様子から急性膵炎が疑われた場合は、血液中や尿中の膵臓の消化酵素の値を測定します。さらに腹部超音波検査や腹部CT検査を行い、膵臓の状態を評価することで診断を確定します。
治療は?
急性膵炎と診断された後は入院となり、飲水や食事の禁止、点滴による補液、抗生剤や膵臓の酵素の活性を抑える薬剤の投与などが行なわれます。重症例はしばしば集中治療室で治療されます。
なお、急性膵炎の合併症として膵臓にのう胞(膵液などの液体が入った袋状の貯留物)を形成したり、膵臓や膵臓周囲の組織が壊死化して感染を生じたりすることがあります。その際には内視鏡的治療や手術療法が必要となります。
急性膵炎は、重症度によっては命にかかわることもある病気です。特に飲酒を多くされる方や、健康診断などで胆嚢結石を指摘されている方は、膵炎かな?と思われた場合には医療機関の受診をおすすめします。
医師 堀部 大輔