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医療の不確実性3

医療の不確実性のお話を続けていますが、今回は患者の立場から見た不確実性のとらえ方について進めていきます。

最近はインフォームドコンセント(日本語では「説明と同意」)という言葉をあちこちで目にしますが、今一つ何を指しているのかわかりずらいのではないでしょうか?
かつて医療は医学的な知識だけでなく、患者さんの性格から家庭環境まで十分に理解した主治医(主に家庭医)が、考えられる病気や治療の選択肢を比較し、天秤にかけた上で最も適切と思われる治療(方針)だけを患者さんに提示し、「この方法が一番だから、これでやりましょう(医師によっては黙ってついて来い)」的な、いわゆる家父長主義が主流でした。時代が変わって、この主治医の頭の中のプロセスや天秤を表に出して説明することが一般的になってきました。私は、この天秤にかける作業を患者さんと一緒に行い、方針決定に患者さんも関与する(時には患者さんが主導して)ことがインフォームドコンセントの本質であると理解しています。日常の診療においても、症状が改善しないときにどこまで待つのか、どの時点で次のステップ(検査をするとか手術をするのか)に進むのか、といった「グレーゾーン」は常に存在し、患者さんのお考えもお聞きして一緒に相談しながら選択していくことがインフォームドコンセントにあたります。さらに、重大な疾患や負担の大きい治療となれば、医学的な内容だけでなく患者さんの社会状況や考え方が天秤に大きな影響を与えるため、インフォームドコンセントの役割は非常に大きくなります。

単純化していえば、がんの治療において副反応は強烈だが効果も期待できる薬を使うか、副作用が少ないため生活は楽しめるけれど効果も少ない薬を選択するか、あるいは強力な治療をしても根治が難しい場合は治療そのものを行わず、元気なうちに旅行や食事を楽しむか、といった選択は医学的な判断だけでは決定できず、患者さんの社会的役割(引退後か、家族の状況はどうか、など)や人生哲学によって大きく影響を受けます。
これまで繰り返し述べてきたように、医療にはこの薬が100%有効、ということはないので、この治療法だと〇%の人が5年は生存する、といった確率論でしか言えないため、なるべく正確な情報を得たうえで最終的には患者さんが主治医とともに判断を下すわけです。

このことはがん治療といった重大なものだけではなく、日常診療で遭遇する疾患すべてに言えます。私の専門である小児科だと、発熱が5日以上続く場合の診断と治療方針でこの不確実性が問題になります。通常、風邪による発熱は2、3日程度で解熱してくることが一般的ですが、ウイルスの種類やその時の体調などの要因によってはそれ以上続くこともあります。しかし、発熱が5日以上続く場合は2次的な細菌感染や川崎病など、入院してしっかり治療が必要な疾患の可能性も出てきます。また、肺炎を起こしているかもしれません。年齢、全身状態や呼吸音などを確認したり、必要に応じて採血やレントゲンなどの検査を行って診断と必要な治療を総合的に判断します。この中で、どのタイミングで検査を行うか、あるいは治療をどうするかといったことについては、100%の正解はありませんので、ご家庭の状況(兄弟の有無や年齢、家族のサポートなど)やご心配の程度(初めてのお子さんとか、親御さんの性格)も加味して、ご家族と相談することになります。このように、たとえ日常診療であっても医療においては常に不確実性を伴い、適切な情報提供をもとに医師・患者の共同作業にて方針を決めていくことが必要になるのです。

3回に分けて医療の不確実性についてお話をしてきましたが、私自身は風邪の診療にあたっても想定される病態を説明し、今後想定される経過をお話しして、その想定からずれる場合は早めの受診をしてもらえるよう、常に不確実性を頭においてご家族に説明するよう心がけております。

医師 長澤 哲郎