前回まで医療の不確実性のお話をしましたが、今回からはガラッと変わって子どもによくみられる感染症のお話をします。
「感染症」というと難しく感じますが、病原性を持ったウイルスや細菌などの微生物(病原性微生物)によって引き起こされる病気を指します。人間の大腸の中には大腸菌(常在菌)がたくさんいますが、通常は何も症状を引き起こさないために感染症とは呼びません。しかし、同じ大腸菌でも下痢や発熱といった症状を引き起こす種類があり(病原性大腸菌)、こちらは感染症と呼びます。感染症の中で最も多い原因はウイルスで、子どもの場合、風邪の9割以上はウイルスが原因と言われています。子どものウイルス感染症には特徴的な症状・経過をたどるものがあり、その知識があると安心につながりますので、数回に分けてお話ししてみようと思います。
最初は、ほとんどの赤ちゃんが1歳前後で経験する突発性発疹についてです。この感染症は、生後6か月―1才半頃の赤ちゃんが、高熱を3日ほど出して解熱と入れ替わりに(熱があるのに発疹が出たら違う病気です!)胸やお腹に赤い点状の発疹があらわれるという、大変特徴的な経過をたどるので、発疹が出れば診断は容易です。逆に、発疹が出る前に発熱をする病気はたくさんあるので、疑うことはできても診断をつけることはできません。発熱以外の症状がないことが特徴とされていますが、小児科外来でみていると軽い咳や鼻汁を伴うことは決して珍しいことではなく、便が緩くなることはよく見られる随伴症状です。
発疹の程度はさまざまで、はしかを疑うほど(はしかの発疹は発熱期に出るので区別は容易ですが)濃い場合も、その眼でみないとわからないほど薄いこともありますが、はっきりしていても数日で跡を残さず消えていくのが突発性発疹の特徴です。発疹に対しては特に何か塗る必要はありません。
なお、このウイルスは神経が好きで(神経親和性がある)あるため、発疹が出ている間は無性に機嫌が悪くなります。発疹がはっきりしないことも1、2割あるので、3日間の発熱後に機嫌がやたら悪い場合は、発疹のないタイプの突発性発疹かもしれません。
なお、突発性発疹を起こすウイルスには2種類あり、1歳前後に好発するヒトヘルペスウイルス6型の他に、2―3才とやや高めの年齢に好発する7型があり、こちらは発疹がみられることが少ないため、2回突発性発疹に罹ったとわかる子どもは少ないです。しかし、どちらも4、5才までには95%以上の子どもが抗体を持っているため、発疹が出ずに診断がつかなかっただけでどこかで罹っているはずです。
通常は発疹も含めて1週間もすれば何もなかったようにいつもの生活に戻りますので、通過儀礼のようなものですが、急に高熱がでることや熱性けいれん(1―2歳で発症することが多い発熱に伴うけいれん)の好発年齢と重なるため、突発性発疹に伴う熱性けいれんがたまに見られます。熱性けいれんは、日本人の場合は7―8%の子どもにみられる問題のない病気ですが、初めてのけいれんの場合は念のため救急外来を受診した方がよいでしょう。
好発年齢から、人生最初の発熱であることも多く、特に第1子の場合は高熱であることもあり、大変心配になると思います。発熱の原因には細菌性の扁桃炎など、抗生剤の治療を行う必要があるものもあるので、ご心配な場合は小児科の受診をお勧めいたします。
医師 長澤 哲郎