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予防接種1

今回から予防接種について何回かに分けてお話しようと思います。予防接種は、乳幼児健診や一般診察を行っていても質問が多く、小児科の中でも特に関心が高い分野です。今回は、予防接種で防げる病気がどんなものであるか説明します。

麻疹(はしか)は、ひとつの感染症としては世界最大の死亡者(毎年約100万人)を出していますが、日本でも2回接種となった2006年頃までは毎年数十人の死者がでていました。特に1980年代後半の流行時には年80~100名の幼児が亡くなりました。先進国であっても麻疹にかかると数百人に一人は助からないと言われており、命を落とさないまでも脳炎や肺炎などで後遺症が残ることもあります。シンガポールは周辺に麻疹の流行国が散在していて、人口のわりに患者数が多いので感染のリスクはそれなりに高い状況です。無防備な状態にならないよう、1歳のプレゼント(1歳の誕生日から受けられます)として「命の贈り物」をお勧めします。

Hib(ヒブ)や肺炎球菌という細菌による髄膜炎(細菌が脊髄や脳の周囲で増殖する病気)は乳児期後半から幼児期にかけてよく見られていました。5~10%の死亡率と40~50%の後遺症(てんかんや難聴等)もあり、多くの小児科医にとってつらい思い出に結びついています。2008年にヒブ、2010年に肺炎球菌の予防接種が日本でも導入されて以降、髄膜炎の発生数が激減しました。中でもヒブの予防接種の効果は絶大で、全国規模の調査でも2014年以降に患者が報告されておらず、予防接種によって実質的に「根絶」したと考えてよいでしょう。このため、若い小児科医が細菌による髄膜炎を経験するほとんど機会がなくなり、教育上問題となっているほどです。

一般におたふく風邪はそれほど問題になることはないと考えられていますが、髄膜炎の合併が約10%もあり、男女とも不妊症の原因にもなります。また、日本耳鼻咽喉科学会で行った初の全国調査でもおたふく風邪が原因と特定された難聴の方が2年間で314名にのぼり、そのうち14名は両側でした。この難聴は回復することがなく一生続くこと、ほとんどが小児期の後遺症であることから、おたふく風邪といえども軽く考えることはできません。

このように、予防接種で防げる病気は命にかかわったり、後遺症が問題となるものですので、それぞれの予防接種の推奨時期がきたら早めに受けておきましょう。何から受けていいかわからない場合は、お気軽に担当医までご相談ください。

医師 長澤 哲郎