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熱性けいれん2

前回は、発熱に伴い1才から4、5歳にかけての子どもがけいれんを起こす熱性けいれんについての概要をお話ししましたので、今回はその予防方法について俯瞰してみたいと思います。

日本では、約10人にひとりが発症するほど頻度が高いものですので、熱性けいれんの予防に関しては昔からさまざまな研究や検討がなされてきました。2015年にそういった研究をまとめて「熱性けいれん診療ガイドライン2015」が発行される以前は、一度でも熱性けれんを起こした子どもは次の発熱からけいれん止めの座薬を予防的に使うことが広く推奨されていましたが、風邪をひくたびに御家族がピリピリしながら数時間ごとに熱を測ったり、熱が上下する場合に座薬を使うべきかどうかで頭を悩ます、といった状況が続いていました。ガイドラインでは、多くの研究を総括して、熱性けいれんがたとえ何度かあっても将来の知能や発達には影響を及ぼさず、てんかんの発症率も一般人口と変わりがない(逆に、もともとてんかんが隠れていたケースではそれを予防できない)ことがわかったので、通常の熱性けいれんを予防しにいく意味はほとんどないとして、予防は原則として行わないとされました。もちろん、長いけいれんの既往があったり、離島などで医療アクセスが悪いとか、もともとの基礎疾患から予防が望ましいケースなど、個々の事情に応じて必要な措置を取るよう推奨されています。また、ガイドラインができる前は解熱剤を使うとそれが切れて急に熱が上昇するときにけいれんを起こしやすいからという理由で熱さましは使わないことが一般的でした。こちらについても、解熱剤の使用で熱性けいれんの発生が高くなるというエビデンスがないことから、通常通り(他の子と同じように)つらいときには解熱剤を使ってあげてかまわないという結論になりました。簡単にまとめると、1、2回短い熱性けいれんがあっても、けいれん止めを使う必要はなく熱さましも普通につかって問題ないということです。

一方、シンガポールでは、けいれん止めを予防として使うとその影響で眠くなることが意識障害(=急性脳症など緊急を要する病気で見られます)と区別しにくくなる点が問題とされて、日本のような予防方法は基本的に行なわずに、発熱したらひたすら解熱剤を使い続けてやり過ごす方法が勧められています。機会けいれん(前回の「熱性けいれん1」を参照)である熱性けいれんは、その機会、すなわち発熱を取り去ってしまえばけいれんを起こさないという合理的な考えに基づくものです。前述のガイドラインでは7つの研究結果をもとに、解熱剤を持続的に使って熱を上げないようにしても、熱型けいれんの発症率は変わりないと結論していましたが、その後に発表された最新の研究では、強い解熱剤でしっかり下げればけいれんの発症率を少し下げることができるとされており、シンガポールの方法に根拠を与えるデータになっています。しかし、熱性けいれんの好発時期である1、2歳は急に発熱することも多く、発熱したら夜中も含めて両親が交代で熱を測ったり解熱剤を使ったりする労力が大変であるのに対し、発症率がわずかに下がるだけなので(多くの研究では差がないとの結論)、あまり効率のいい方法ではないと個人的には考えています。また、日本人の場合はボルタレン(R)のような強い解熱剤は急性脳症のリスクを上げることがわかっており、安全が高い、すなわち解熱効果が低い解熱剤を使うことが一般的である点からも、勢いのある熱を下げ続けることは現実には難しいと思います。

最近の話題としては、新型コロナウイルス(特にオミクロン株以降)が熱性けいれんを起こしやすいということがあります。この性質のため、1、2才で起こして以降何年も全く起こしていなかった子どもが、新型コロナによる高熱で久しぶりに起こして心配というケースを見るようになりました。これは、ウイルスそのものがけいれんを起こしやすい性質を持っているためですので、年齢が高くてけいれんを起こしても心配する必要はありません。一方で、新型コロナは子どもに脳症を起こすことが知られており、とりわけ日本での報告が目立っていますから、けいれんが長かったり、けいれん後も意識の戻りが悪いときには躊躇せず救急外来を受診するようにしてください。

このように、国や時代によって変化する予防方法ですが、熱性けいれんは半数以上が生涯1回だけ、言い換えれば再発は0回ということになり、2回を入れれば(つまり、再発が1回のみ)8割になるので、「予防」にあまり神経質になる必要はありません。一方、何度も繰り返す子どもは1、2割と言われていますが、それでも熱性けいれんであれば7、8才以降は起こすことなく、発達にも影響を及ぼさないので、回数にこだわる必要はないと思います。大切なことは、日本とシンガポールの予防に対する考え方を知っておき、救急外来でお世話になるときは「なるほど、こういうことか」と納得できることではないでしょうか。

*脱稿直後にガイドラインの改訂版が発行されましたが、改定版でも解熱剤使用のけいれん再発予防に対する効果は期待できないので推奨しない(熱のつらさを取るという通常の使用は問題ない)となっていました。この「熱性けいれん診療ガイドライン2023」については、次回取り上げる予定です。

医師 長澤 哲郎