発熱に伴い1才から4、5才にかけての子どもがけいれんを起こす熱性けいれんのお話を続けます。熱性けいれんは日本での頻度が高い(約10人に1人)こともあって、研究も盛んにおこなわれており、日本小児神経学会が2015年に「熱性けいれん診療ガイドライン」を発行して対応や予防に関する目安を示し、日本で広く使われています。前回の原稿をまとめた直後、2023年1月にこの改訂版である「熱性けいれん(熱性発作)診療ガイドライン2023」が発行されましたので、今回はこのガイドラインを中心にお話をしていきます。
まず、題名に「熱性発作」という耳慣れない言葉が入りました。これは、「けいれん(Convulsion)」が厳密にいうと全身の筋肉をガクガクと収縮させる状態を指すのに対し、「発作(Seizure)」は筋肉の収縮を伴わずに意識が低下してボーっとしたり、逆に脱力してしまう状態も含んだより幅広い概念で、最近では両者を区別して使用する流れがあります。熱性けいれんにも、このような筋肉の収縮も伴わない「発作」がたまにみられるため、より広い概念として「熱性発作」という用語が提唱され、今後広まっていくものと考えられます。しかし、ほとんどの熱性発作は筋肉の収縮をともなう「けいれん」タイプであることから、本稿では引き続きなじみのある「熱性けいれん」という用語を使うことにします。
今回の改訂版でも、熱性けいれんは基本的に6才を過ぎれば起こらなくなり、知的な発達にも影響を及ぼさない経過の良い疾患であることが強調されています。ただし、発症が熱性けいれんと同じであっても、将来的にてんかんなどの神経疾患として診断される例が一定数混じっている可能性があり、この件についてかなり紙面を割いています。もともと熱と関係なくけいれんを起こす疾患(てんかんが代表)がベースにある場合、熱があるとよりけいれんを起こしやすくなるために最初の発作を熱性けいれんとして発症し、その後に熱がなくてもけいれんを起こすてんかんに進展していくケースが時々あります。この「熱性けいれんで発症したあと、てんかんを発症する割合」は2―7%とされ、一般人口のてんかん発症率(0.5―1%)に比べて高い割合になります。と言っても、裏返せば約95%はてんかんを発症しないことになり、それほど心配しなくてもよいことがわかります。改訂版では、最近の研究をもとに、この「てんかん発症」と関連がある要因として
1)もともと発達が遅れていたり、麻痺などの神経症状がある
2)両親または兄弟姉妹に「てんかん」の患者さんがいる
3)複雑型熱性けいれん(持続が15分以上など)をおこした
4)発熱してから1時間以内にけいれんがみられた
5)3歳を過ぎてから熱性けいれんがみられた
の5項目を挙げています。たとえば、1)―3)の項目がいずれもない場合のてんかん発症率は1%と通常と変わりありませんが、1項目のみ認める場合は2%と少し高くなり、2―3項目だと10%とリスクが高くなります。また、4)と5)については、それぞれ2倍、3倍リスクが高くなるとされています。
また、前回もお話ししたように、熱性けいれんは約70%の患者さんで生涯1回のみの発作で、2回目以降を起こす患者さんは30%程度です。初回の発作を起こした時に、2回目以降を起こすリスクについてもまとめられています。この「熱性けいれん再発予測因子」は、
1)両親または兄弟姉妹に「熱性けいれん」の既往がある
2)1才未満で熱性けいれんを起こした
3)発熱してから1時間以内にけいれんがみられた
4)発作時の体温が39度以下であった
の4つで、どれか1つが該当すると再発率は2倍になります。逆に、これら4つの再発因子がない場合に、2回目以降を起こす確率は15%とかなり低くなります。このように見てくると、熱性けいれんはそれほど繰り返すことはなく、ガイドライン2015が出るまで日本で行われていた「熱性けいれんを一度でも起こしたら無条件に2年間は発熱時のけいれん予防投薬(座薬)を行う」という方法が患者さんやご家族にどれほどの負担を強いていたかを改めて感じました。シンガポールでは解熱剤を夜中も含めて24時間ずっと使い続ける対応をしていますが、この方法も同様に患者さんとご家族双方にとって負担の多い方法であると言えます。何度も繰り返し起した患者さんの予防については、稿を改めてお話しします。
改訂版は盛りだくさんですので、次回もこの「ガイドライン2023」を元にお話を進めていく予定です。バックナンバーは、当クリニックHPのバナー右上にある「医師コラム」からご覧いただけます。
なお、改定版は診断と治療社から発行されており一般の書店やネットでも購入することができます(3千円+税)し、旧版については「日本小児神経学会」のホームページの「ガイドライン」からダウンロードも可能です。
医師 長澤 哲郎