紅麹問題は、血中コレステロールを低下させる成分を含んだ「自然な感じのする」サプリメントに混入した青カビの成分が腎機能を悪化させたというものです。昨今の自然ブームで、何でも天然のものは良い、という行き過ぎた考えがかえって健康を害する事例をよく見かけます。2011年に「茶のしずく」という小麦の成分を含んだ石鹸による重篤なアレルギー反応が社会問題になりました。天然の成分なら体に良いだ
ろうという考えが必ずしも正しくないというわかりやすい例だと思ます。また、西洋薬は副作用があるから使いたくないが、漢方なら副作用がないので使ってもよい、という患者さんも多いですが、漢方薬だから副作用がないと言うことはなく、小柴胡湯による間質性肺炎は比較的よくみられ死者も報告されています。最後の事例として、象徴的な食中毒のニュースを紹介します。日本で保存料不使用を売りにしているパン屋さんがイベント準備で何日もかけて大量のパンを販売したところ、多くの食中毒患者が発生したというものです。食中毒では死亡もありえますので、安全性が確認されて認可されている保存料を使ったほうが遥かに安心であったと言えます。
この「自然信仰」の理由として、人間は「混沌としたもの」に万能の力を感じる本能があるのではないかと思います。世界の宗教を見ても、「混沌から何々が生まれる」パターンは数多く見られますし、中世では錬金術という別の金属から金を作り出す方法が盛んでした。水銀から銀を、真鍮から金を作ろうと努力しましたが、もちろん元素のAuは、何を混ぜようが加熱しようが決して他の元素から作ることはできません。しかし、この「混沌から価値があるものが生み出される」という感覚が、紅麹に精製されたロバスタチン以上の効果を期待する感覚につながっている気がします。
バックナンバーをご覧になりたい方は、当クリニックHPトップページ右上バナーの「医師コラム」から簡単にご覧いただけます。
医師 長澤 哲郎