これまで、人間は混沌としたものが精製した純粋なものより「特別な効果」があるように感じてしまいがちであるが、紅麹の製造過程で青カビの混入を許して健康を害するくらいなら最初からコレステロールを下げる成分を精製して使ったほうがはるかに安全であるというお話をしてきました。今回は、この話をさらに掘り下げて紅麹のお話を終えようと思います。
自然科学は惑星の運動のように単純な、つまり惑星の質量と速度が決まれば1年後でも1万年後でも位置関係はただ一つに決まるといった、ところから発展していきました。惑星と異なりヒトは自然科学にとって非常に複雑な体系であり、同じ薬を飲んでも高い効果が現れる人も副作用が出てしまう人もいますが、それを予知することは現在の医学では大変難しく、惑星のように未来を予想することに限界があります。この限界を皆が漠然と意識していることから、工業的に生成された医薬品より天然に近い紅麹のほうに惹かれてしまう人が多いのだと思います。しかし、遺伝子レベルでの解析やスーパーコンピュータの進歩などにより、あらかじめ抗がん剤の効果と副作用を正確に予測してオーダーメイドの治療を行うといった、大きな進歩が医学の分野でも近年見られています。もし将来、さっき出た熱が何日の何時に下がるかといったレベルまで予測ができるようになれば、医学も狭義の自然科学の仲間入りをすることになり、ひいては紅麹に対する信仰も薄らいでいくのではないかと個人的に考えています。
複雑系の代表であるヒトの中でも、感情や精神活動は「最後のフロンティア」と言われています。今回のテーマである「なぜヒトは紅麹をありがたく感じるのか」をはじめ、なぜ試験の前日はふだん放っておいた本がかくも面白いのか、といったヒトならではの矛盾に満ちた感覚はいくらコンピューターが進歩してもそう簡単には解明できないと思われます。しかし、脳波を解析することでこれらの最も「人間的な」活動に切り込んでいく研究が、ゆっくりですが進んできています。この精神活動に切り込む手段である「高周波脳波」については、紅麹とは離れてしまうので稿を改めてお話したいと思います。キーワードは、「研究費でWiiを買う!?」です。
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医師 長澤 哲郎