前回は予防接種の副反応(副作用)について、あくまでも良い面(効果)と悪い面(副反応など)の比較の問題であり、後者をなくすことはできないが圧倒的に前者が勝っているために予防接種が行われるということをお話しました。今回も引き続き、この両者の比較について考えていきます。
予防注射には、そのメリットが実感できないという特徴があります。通常の医療行為では、痛み止めで楽になったとか手術でがんを取り除いたといったように、行為の結果が誰の眼にも明らかな効果があります。ところが、予防接種のおかげで病気にかからなかったとしても、予防接種が防いだということは分かりません。はしかの予防接種をしていた兄だけがかからずに、接種していない弟ふたりがかかったという特殊な状況でもない限り、効果を認めてもらえないわけです。しかし、国レベルでの調査をすれば、予防接種の効果は明らかです。たとえば、かつてジフテリアは毎年9万人ほど発生して、死亡率10%(5歳以下では20%)という恐ろしい病気でしたが、3種混合ワクチンDPTが普及してから激減し、日本では1991年からの10年間で患者数21名(死亡2名)となっています。しかし、旧ソ連の崩壊に伴って数年間ワクチン供給が滞っただけで、当該地域で12万5千人の患者(死亡4千人)が発生したことをみても、ワクチン接種の有効性と重要性が理解できます。
逆に、予防接種の副反応については「過剰な見積もり」が問題となります。ワクチン接種後に起きた不具合については、明確に因果関係を否定されない限り副反応とみなされます。極端な話、交通事故にあっても「ワクチンとの因果関係が完全に否定できない」として、治験段階では副反応として報告されます。よく見られるワクチン接種後の発熱にしても、ワクチン接種が一番立て込んでいる乳幼児期にはワクチンを打たなくても熱を出すことは珍しくありませんが、ワクチンの影響を否定することは誰にもできないので統計上はこれらをすべてひっくるめて「発熱」という副反応にカウントされています。こういった「紛れ込み」の問題は発熱以外の副反応でもありますが、そのような「濡れ衣」をかぶっても現在使われているワクチンの安全性は高いことが立証されています。
さらに、「ワクチンでこんな副作用があった」というのは耳目を引きやすいため、マスコミに取り上げられたりして目に付きます。20年前にMMRワクチンが自閉症の原因という論文が話題になりましたが、のちに意図的に結論を変えていたことがわかり著者は医師免許を剥奪されました。しかし、内容が刺激的であるため、いまだにこの話が流布されています。フェイクニュースに惑わされず、正しい情報を理解しておくことが大切です。
予防接種は、眼に見えないところで確実に私たちを守ってくれている、縁の下の力持ちなのです。
今年になって在星日本人の間で、はしかやおたふく風邪の報告が相次いでいます。この機会に、お子様の母子手帳を確認するとともにご両親の記録も振り返ってみてはいかがでしょうか?
今回で予防接種のお話をいったん終了し、次回からインターネットで情報を得るときの注意事項について述べていきます。
医師 長澤 哲郎