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発達障害診療2「発達障害/神経 発達症の定義」

「発達障害診療について1」では、診断というもののプロセスと、発達障害には慎重な診断が重要であることを述べました。2では、発達障害/神経発達症の定義について述べていきたいと思います。

「発達障害」という言葉は、実は現在は診断名として使用されていません。この言葉は現在、発達障害者支援法(2004年制定)において使用されており、「自閉症アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害そのこれに類する脳機能障害であってその症状が通常低年齢において発現するもの」と義されています。発達障害者支援法は、日本でこれらの疾患を有する人々への十分な支援を行うための法律であり、診断基準を示しているわけではないのです。

現在、精神疾患について診断基準によく用いられるのは、アメリカ精神医学会の診断分類である「DSM-5」(2013年)です。ここでは、発達障害と概ね同義の疾患分類として「Neuro Developmental Disorders(神経発達症)」が用いられています。この疾患群に含まれる疾患として、自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如多動症(ADHD)、学習障害(LD)などが挙げられ、それぞれの診断基準が示されています。また、それぞれの疾患の特徴はオーバーラップする部分が多く、疾患ごとの境界が曖昧であることも述べられています。
DSMにも様々な変化がありました。DSM-が発行されたのは1952年で、ここですは「自閉スペクトラム症のような疾患」は小児期における精神病の一つとして言及されていました。大きな転換となったのは1980年に発行されたDSM-、「Pervasive Developmental Disorders(広汎性発達障害)」が、精神病とは別のカテゴリーとして初めて登場しました。さらにDSM―Ⅳ(1993年)はその下位分類を充実させるような改訂があり、DSM(2013年)ではカテゴリーの名称が「神経発達症」に変わった、というわけです。ここで日本の発達障害支援法を振り返ってみると、制定は2004年なので、DSM-の疾患名を使用していると考えられます。

このように医学においてカテゴリーの名前が変わったにも関わらず、現在の日本では今も「発達障害」という言葉がよく使われています。その理由として、この用語が法律で今も使われていることに加え、多くの人々にすでにこの言葉が広まっていることが挙げられます。そのためこのコラムでも当院の診療においても、「発達障害」という言葉を使っています。

今回強調したいことの一つ目は、いわゆる「発達障害」の疾患名や分類はここ50年足らずで大きく変化しており、今後も変更される可能性があるということです。二つ目は、その変更が、新しい事柄が発見されたために起こるだけではなく、「事象をどのように認識し記述するか」によって生じる可能性が高い、ということです。発達障害というカテゴリーそのものがコミュニケーションの障害や社会的技能の獲得の困難さを特徴としているので、文化、社会などによってある程度流動的な概念となることは当然かもしれません。私たちはこのような変化も前提とした上で疾患と向き合う必要があります。

3以降は、自閉スペクトラム症、ADHDなどそれぞれの疾患について考えていきたいと思います。

 医師 佐渡 めぐ美