健康なときにはあまり意識できませんが、病気などで味覚や嗅覚がにぶくなると、とても不便になります。せっかくの美味しい食事や飲み物が味気なくなりますし、腐ったものやガスや焦げた匂いがわからない場合は、危険でもあります。今回は、味覚や嗅覚が低下してしまう病気をみていきたいと思います。
味覚と嗅覚は密接に関係しています。人間は味覚と嗅覚をそれほど厳密に区別して感じているわけではありません。「食べ物の味がおかしくなった」というときに、実はベロ(舌)の病気ではなく、鼻の病気であることも多くあります。例えば、鼻炎や副鼻腔炎(ふくびくうえん)が悪化すると食べ物の味が変わったように感じることがあります。逆に、「最近、何もないのに変なにおいがする」ときに、鼻ではなく、ノドや口の中に、口内炎や慢性の咽頭炎や腫れ物などが見つかる場合もあります。また、体の中で特定のビタミンや元素(亜鉛など)が欠乏して味覚や嗅覚に異常がでる場合や、ストレス性に感覚異常が出る場合、常用している薬剤やその他の全身的な病気が背景にあることもあります。
動物の進化という観点でみれば、味覚や嗅覚は古い時代に発達した感覚であり、その分、根源的な人間の感情に深く関わることや、その障害が日常生活に大きく影響することが知られています。異常が続く場合は、的確な診断を行い治療を行っていくことが必要です。
医師 千原 康裕