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外傷は語る

前腕には2本の長い骨がありますが、尺骨(前腕の小指側の長い骨)が単独で骨折することは「Nightstick Fracture(警棒骨折)」と呼ばれています。変わった名前だなあと思いその由来を調べてみると、警察官に警棒で叩かれそうになった容疑者が、前腕を顔の前に保持する防御姿勢を取り、叩かれた側である尺骨のみが骨折するからだそうです。確かに、直接的な外力がそこに加わらない限りは起こらない、日常的にはあまり多くないタイプの骨折です。

ある文献にはこう書かれていました。「尺骨の単独の骨折はパートナーから暴力を受けているということを知るヒントになるかもしれないー」統計を取ってみると、パートナーからの暴力を受けていないと完全に否定出来たケースは約半数しかなかったということでした。

外来に来られる患者さんは時として本当のことを語ってくれないかもしれません。また、まだおしゃべりが上手に出来ない乳幼児であるケースや、症状が重篤で意識がもうろうとして話が出来ないということもあるかもしれません。上記の例のようなDVのケースは、患者さんが「転倒した」と言ってやって来たとしても、外来で医師が「なんか変な骨折の仕方だなあ」と詳しく受傷時のことを訊くことによって更なるDVを食い止められるかもしれません。同様に、骨折の子供に火傷や他のアザを見つけたら、虐待を疑う必要があるでしょう。

骨折やケガは、時として患者さん以上に語ります。外傷を担当するからには、これからもその声を聞き逃さず診療をしていきたいと思っています。

医師 長谷川 典子