前回は認知症を予防するためのガイドラインに関してお話しさせていただきましたが、その中では「社会的活動への参加や社会的な支援は人生を通じて健康や幸福に強く関連しているため、社会的包摂は重要である」と述べられています。日本でも雇用が65歳まで延長され、今後も高齢者の社会参加はますます進んでいくと考えられます。
もちろんこれは悪いことではないのですが、その反面でどうしても心疾患や呼吸器疾患をはじめとした多くの疾病を抱えた従業員が会社内に増加することとなり、これにより職場内での心疾患や脳血管疾患による救急事例(突然の心停止、呼吸停止など)が増加する可能性が考えられます。
確かにこれは日本の話であり、海外赴任・海外出張でシンガポールにいらっしゃっている方は比較的若い方々が多いとは思います。ただ、シンガポールでも高齢化は進んでいますし、今後日本に帰国されることもあるでしょうから、我々にとって救急事例に遭遇する可能性は次第に高まってくるのではないかと思います。
では、救急事例に対する救命処置はどのようなものがあるでしょうか。これは大きく分けて一次救命処置と二次救命処置に分けられます。一次救命処置はBLS(Basic Life Support)と呼ばれ、簡単に言うと心臓マッサージ、人工呼吸、AED(自動体外式除細動器)の使用です。これは医療従事者でなくとも行うことができます。二次救命処置はACLS(Advanced Cardiovascular Life Support)とも呼ばれ、一次救命処置に引き続いて行われます。これは医師を含む医療従事者のチームによって行われる心肺蘇生法であり、BLSのほかに気管挿管などの確実な気道確保と高濃度酸素投与、電気的除細動、静脈路確保と薬物投与などを含みます。
ところで、いろいろな研究を通して言われていることが、二次救命処置よりもむしろ一次救命処置が重要であること、またできるだけ早く処置を開始することが重要であるということです。つまり、非医療従事者が関わることのできる処置が非常に重要であるということです。ただ一方で、救急隊到着時に有効な一時救命処置がなされているのはせいぜい40%であるというデータもあります。
ここで重要になってくるのが講習です。シンガポールでもBLSの講習は比較的頻繁に行われています。例えば、Singapore Red Crossのホームページにも講習の案内が出ております。
https://www.redcross.sg/get-trained/first-aid-and-psychosocial-support.html
講習は無料ではないのでお勧めしにくいのですが、もし興味がおありでしたらぜひご覧になってください。
救命処置というと、どうしてもドラマの中などの別世界の出来事のように感じてしまいますが、身近な環境でこういった処置が必要とされてしまう可能性はこれから少しずつ上がってくるものと思われます。これを読んでくださっているあなたもひょっとしたら誰かのその後の運命を分ける重大な局面に遭遇するかもしれません。BLSの講習を受けたことが有るのと無いのとでは大きな違いがありますので、機会がありましたら一度講習を受けていただきたいと思います。
医師 堀部 大輔