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感染症2 手足口病

感染症のお話の2回目は、シンガポールで何かと問題になる手足口病について取り上げます。

手足口病は、文字通り手足と口に発疹ができるウイルスが原因の感染症です。一般に風邪のウイルスは鼻や喉が好きなので、ウイルスを排除しようとして鼻水や咳といった症状が出てくることが多いですが、手足口病のウイルスはこういった一般的な風邪症状に乏しく、口腔内(時には唇周囲)と手足が好きで、そこに発疹が出てくることが特徴です。文字通り、手足と口に発疹ができるので「手足口病」というわけで、英語でもHand―Foot―MouthDiseaseと言います。
このような一連の症状をきたウイルスはいくつかあって、そのうちの一つに罹っても他のウイルスに対する抗体はできないため、はしかや水ぼうそうと異なり何度か手足口病にかかることはめずらしくありません。
典型的な経過では、喉に口内炎ができてしみる食べ物を嫌がったりして、どうしたのかと思っていると手のひらや足底に水疱をもった小さな発疹がぶつぶつと出てきます。手足の発疹は痛かったり痒かったりすることはほとんどなく数日の経過でかさぶたができてきますが、新しい発疹もできるので、1週間くらい発疹が出てくることが多いです。熱は、微熱が数日間続くパターンと高熱が1日ほど出てすぐに解熱するパターンの2つがありますが、いずれにしても熱で困ることはまずありあませんので、口内炎が痛くて食事や水分が取れないことが一番問題になります。

軽い場合は、手足の発疹があって、口の中にも発疹を見つけて診断がつく程度ですから、日本では発熱や口内炎がひどくない限り登園は可能です。学校保健法にも「症状の安定した者は登校可能(発熱期や口内痛のため摂食できない期間は休む)」と記載されており、熱がなく食事がとれている状態なら発疹が多少残っていても問題ないと考えられます。
ところが、シンガポールではご存知のように手足と口腔内のチェックが毎朝行われており、疑わしい発疹があると医療機関の受診を指示されますし、手足口病と診断されるとどんなに軽い症状でも、口内炎が完全に消失してすべての発疹がかさぶた状になるまで(通常1週間―10日程度)は登園禁止になります。この理由は、台湾を含む東南アジアでは、手足口病のウイルスのひとつが脳にダメ―ジを与えて死亡率も高い急性脳炎を起こすことがあるためです。もちろん脳炎を起こすのは稀なことですが、1997年にマレーシアで流行した時に有名になり、それが現在の厳しい措置につながっているというわけです。この脳炎には人種差がはっきりしており、幸い日本人は報告例がいくつかあるものの東南アジアの人と比べると格段に頻度が低く、手足口病になったからといって心配する必要はありません。

医療機関で診察を受けたら、新しい発疹が出現しなくなり古いものも全てかさぶた状になってから再度受診の上、登園許可書をもらう必要があります。それまでの間は、元気があればお散歩程度はいいですが、くれぐれもプレイグラウンドなど他の子供たちがいるところは近づかないでください。シンガポールの親御さんたちは手足口病についておそろしい脳炎を引き起こす可能性のある病気という認識があるので、不用意なトラブルのもとになります。日本人のリスクが少ないからといっても、うつされたシンガポール人は不安な日々を過ごすことになりますので、外国で暮らす以上その地のルールには従うことが大切です。もし、日本に駐在で来ているシンガポール人の子供がインフルエンザにかかったがもう元気があるからと言って、日本の5日間出席停止というルールを破って学校に来たらどうでしょうか?遺伝的な要因でインフルエンザ脳症にかかりやすい日本人と違って、シンガポール人はインフルエンザに対する恐怖感がほとんどありませんが、出席停止とされている意味を考えれば日本ではこれに従う必要がありますね。

次回は、手足口病とも近いウイルスによっておこるヘルパンギーナを取り上げる予定です。

医師 長澤 哲郎