熱性けいれんは、乳児が高熱に伴って白目をむいて体を固くしたりガクガクと震えることを言います。定義は生後半年から6才ころまでとなっていますが、大多数は1才から3才の間に起こります。逆に言うと、小学生以上ではたとえ熱を伴ったけいれんが起きても、熱性けいれんとは言いません。
まだ未熟な脳が急な発熱に対応しきれずけいれんしてしまうと説明されていますが、発症の詳しいメカニズムはいまだに解明されていません。1回以上の熱性けいれんを起こす割合は世界的には4~5%ですが、日本人はその倍で8-9%と言われています。つまり、クラスに2、3人は熱性けいれんを起こした経験のある生徒がいる計算になります。日本人が多い理由ははっきりしませんが、西欧を中心に1才前から親と別の部屋で寝る習慣がある国が多い中で日本は小学校くらいまで「川の字」で寝ていることが多く、ささいなけいれんでも気づきやすというバイアスがあるのではないかと個人的に考えています。
熱性けいれんは、てんかんとは異なり熱があるときのみけいれんを起こすため、「機会けいれん」という分類に入ります。機会けいれんとは、特定の条件があるときのみけいれんを起こすもので、血糖やナトリウムが低いために起こるけいれんと同じ分類になります。熱性けいれんがあっても、てんかんになることはほとんどないのでご安心ください。
とはいっても、実際に子どもが目の前でけいれんを起こして顔色不良となり、呼びかけに返答がないと不安になり、そのまま死んでしまうのではないかとパニックになってしまう親御さんも多いです。舌を噛むのではと、口にタオルを入れたり割り箸を噛ませたりすることも見られますが、このような行為はかえって窒息や口内を傷つけたりするリスクが増すだけですので、絶対にやらないようにしてください。
熱性けいれんの多い日本では、昔からいろいろな対応方法が考えられ、実践されてきました。しかし、多くは経験に基づくエビデンスに乏しいものでした。2015年に世界中の論文を検索して、日本小児神経学会が監修した「熱性けいれん診療ガイドライン2015」(同学会のHPから無料でダウンロードできます)が作成され、熱性けいれんに対する考え方や対応、そして予防方法が新しくなりました。
今回から数回に分けて、このガイドラインやその後発表された最新の論文の内容も踏まえ熱性けいれんに対する具体的な対応方法をお話ししていきます。たとえば、シンガポールでは熱性けいれんの既往があると数時間おきに24時間解熱剤を入れて熱が落ち着くまで強制的に体温を下げ続けますが、日本では辛そうな時のみ解熱剤を使ってそれ以外は積極的には使わないのが一般的です。そこには、文化の違いや熱性けいれんの頻度の差など、いくつかの要因があると思います。どちらの方法も一長一短があり優劣はつけがたいのですが、シンガポールで救急外来を受診する際は、このような知識をあらかじめ持っておくと安心して説明を聞くことができます。この続きは、次回に詳しくお話しします。
医師 長澤 哲郎