熱性けいれんのお話を4回にわたってしてきましたが、最終回は予防接種(ワクチン)との関係についてまとめてお話をしようと思います。
かつての予防接種法には、けいれんを起こしていると予防接種は原則してはいけないと明記されていました。このため、熱性けれんをもった多くの子供がはしかやインフルエンザなど高熱を出す疾患の予防接種ができず、それらの疾患の発熱でけいれんするという本末転倒の状況が続きました。研究が進むにつれて、ワクチンの副反応による発熱により熱性けいれんを起こすことはごく稀で、実際にかかってけいれんするほうがはるかに頻度が高いばかりか、肺炎や脳症といった合併症が起こりやすいということが明らかにされてきました。これを受けて、1994年に予防接種法が改正されて、一定の配慮があれば原則どんな予防接種でも可能となりました。これにより、それまで生まれてから1本も接種してこなかった(接種を禁止されてきた)子供たちでも打てるようになり、ご本人はもちろん、家族や医療関係者も安心することができるようになりました。
ただし、目安として最終のけいれん発作から2、3か月をあけて、という文言が入ったため、それが現在独り歩きをしてしまっています。本来の趣旨は、発作から2、3か月以上もあけずに適切な時期に接種してください、ということでしたが、数字が入っていると(特に日本人は)それを金科玉条のごとく守らなければならないという空気になってしまいました。せっかくインフルエンザシーズン前に予防接種を受けようと早めに受診しても、この2、3か月がネックになって接種できず、待つ間にかかってしまったという本末転倒の事態も生じました。注意書きには、主治医(担当医)と相談の上、十分な説明のもと接種が可能となっていますので、まずは医師とご相談していただくのが一番です。私は前職場にいたとき、難治なてんかんの患者さんをたくさん担当していましたが、本人の体調が問題ない限りたとえ毎日発作があってもインフルエンザをはじめとする各種予防接種を接種していました。
少し脱線しますが、予防接種は他の医療行為と大きく異なり、接種したことの大きなメリットが実感できず、接種後に発熱があれば(たとえ明らかに風邪症状に伴う発熱でも)すべて予防接種のせいにされてしまいがちという特殊な事情があります。少し古い話ですが、かつて三種混合ワクチン(DPT)が導入されてジフテリアや百日咳で亡くなる子供が激減しました。しかし、この予防接種を受けた後に、けいれんや発達の退行がみられる患者さんが一定数見られて裁判でも予防接種が原因とされてしまいました。その後、多くのケースでは遺伝的な疾患がもともとあり、その疾患の発症時期とDPTの接種時期がたまたま同じであったために、あたかも接種後に発症しているように見えているだけであることが明らかになりました。この場合は遺伝子も同定されているので予防接種が原因でないことは明らかなのですが、ほかにも予防接種が濡れ衣を着せられたり疑いの目で見られたことは多々あります。熱性けいれんをもつ子供の場合、発熱を伴う疾患の予防はとても大切ですので、かかりつけ医に相談しながら予防できる疾患はもれなく予防接種でブロックするようにしましょう。
今回でいったん熱性けいれんのお話を終えることにしますが、また新しい情報がありましたら適宜アップデートしていく予定です。
バックナンバーをご覧になりたい方は、当クリニックHPトップページ右上バナーの「医師コラム」から簡単にご覧いただけます。
医師 長澤 哲郎