今回は、重篤な合併症を伴いやすい川崎病について、誤解されやすい突発性発疹との違いについて着目してお話しします。川崎病は1才前後に多い高熱と発疹を伴う疾患で、日本人で特異的に多いことが知られています。ほかに、目の充血や舌の発赤(イチゴ状にぶつぶつするのが特徴)、手がパンパンに腫れるといった症状を伴うことが多いです。特徴的な症状としては、BCGの接種部位が赤くなることがよくあり、診断に有用ですが、シンガポールでは左臀部(おしり)にBCGを接種することが多いのでその気になってみないとわからないことがあります。
川崎病が問題になるのは、無治療の場合に20-30%の割合で心臓自身に血液を送っている冠動脈(かんどうみゃく)の拡張がみられ、拡張が強い場合には心筋梗塞をおこして死亡することがあったためです。ガンマグロブリンという血液中の抗体を集めた血液製剤を適切に投与することで解熱が得られ、冠動脈拡張のリスクも3%まで低下します。治療の普及とともに川崎病による死亡例もほとんど報告されなくなってきました。このため、小児科医にとって川崎病は必ず診断して治療に結び付けなければならない重要な疾患になっています。
同じく、1才前後にピークがあり高熱と発疹を特徴とする突発性発疹(以下、突発)は、キーワードが川崎病と同じであるため、両者が混同されることがあります。突発はほとんどの子どもが2才までに経験しますが、ごくまれに脳症をおこす以外は合併症の少ない病気ですので、川崎病との違いを理解して混同しないことが大切です。ポイントの一つは、川崎病は治療を始めない限り高熱がずっと続くのに対して突発は平均して3日、長くても4日で自然に解熱することです。川崎病ではずっと機嫌が悪いのに対して、突発は高熱のわりに比較的元気でかえって解熱後に機嫌が悪くなることも特徴です。二つ目のポイントは、発疹の出現時期と形態です。川崎病は発熱後数日以内に広範囲にべたっとした大きな発疹が出現するのに対し、突発では解熱後に初めて発疹がみられ発疹も体幹に小さなぽつぽつとした赤いものが散在します。いずれにしても、熱があるうちから発疹がでたら突発ではなく川崎病が考えられるので、直ちに小児科を受診してください。(突発の発疹については、シンガポールのフリーペーパー3月号にも記事を載せておいたので参考にしてください)
川崎病はいまだに原因は不明ですが、遺伝的な要因が大きいのでアメリカでも日系人は発症します。もちろんシンガポール在留であってもリスクは同じですので、上記の違いを参考にして怪しいと感じたら必ず小児科を受診してください。
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医師 長澤 哲郎