私は現在総合診療医として勤務しておりますが、日本では外科医として働いていました。当時、虫垂炎はよく見かける疾患でした。虫垂炎の治療法は大きく分けて2つあり、手術治療か抗菌薬治療です。ただ、抗菌薬治療を選択してうまくいかなかった場合、手術治療が必要となります。
最近、米国で虫垂炎に対する手術治療と抗菌薬治療の効果を比較するという研究が行われ、抗菌薬治療の成績は手術治療に劣るものではないという結論が出たのですが、その研究結果をさらに検討したところ、患者さんの抗菌薬治療への信頼度がその後の経過に影響していたとの報告がありました。(Writing Group for the CODA Collaborative. Association of Patient Belief About Success of Antibiotics for Appendicitis and Outcomes A Secondary Analysis of the CODA Rando
mized Clinical Trial.JAMA Surg.Published online October5,2022.)
前置きが長くなりましたが、なかなか興味深い結果なのでご紹介させていただきます。
もともとの研究は、被験者をランダムに手術治療群と抗菌薬治療群の2群に振り分けてそれぞれの治療を行い、その後の経過を観察するというデザインでした。今回のさらなる検討の対象となったのは、抗菌薬治療群に振り分けられた患者さんのうち、振り分けられる前に意識調査に参加していた415人の方々です。この意識調査の中には虫垂炎に対する抗菌薬治療がどのくらい有効だと思うかという質問が含まれており、この回答結果によってこれら415人の患者さんは「治療は失敗する/わからない」群(92人)、「中間」群(212人)、「治療は完全に成功する」群(111人)の3群に分けられました。
そして、これらの3群に関して、治療開始後30日の時点で1)虫垂に対して手術が施行された(つまり、抗菌薬治療では効果が不十分だった)かどうか、2)治療に対する後悔が大きい/不満足かどうか、3)虫垂炎の症状(腹痛、圧痛、発熱、悪寒など)が持続しているかどうか、が比較されました。
その結果、
1)手術を施行された患者さんは、「治療は失敗する/わからない」群と比較して「治療は完全に成功する」群では有意に少ないということが判明しました。
2)治療に対して後悔/不満足だと答えた患者さんは各群間で有意差はありませんでした。
3)虫垂炎の症状が持続している患者さんは、「中間」群が「治療は失敗する/わからない」群と比較して有意に少ないという結果でした。また、「治療は完全に成功する」群は「治療は失敗する/わからない」群と比較して、有意にはならないもののリスクの低下傾向を示しました。
これらの結果から著者らは、抗菌薬による虫垂炎の治療は成功するという患者の考えは、30日後までに手術治療が必要となるリスクや、症状が持続しているリスクが低いことと関連していたと結論しています。
個人的にはすこし強引な印象もありますが、プラセボ効果などのように患者さんの考えが治療成績に影響する可能性があることは知られており、これはこれで納得できる結論です。逆に言うと、自分がよいと思っている治療も患者さんの信頼が得られなければ効果が下がってしまう可能性もあるわけで、患者さんとの信頼関係を築けるようにより一層心がけていきたいと思いました。
医師 堀部 大輔